ランダウアーの理論の特徴は、直流伝導を扱うのに、試料の両端に電子だめ(reservoir) を導入したことにある。ランダウアーのモデルは図のようなものである。 試料Sはリード線L1、L2によって電子だめR1、R2につながれている。 電流を駆動するのは電場ではなくて電子だめR1、R2の化学ポテンシャルq1、q2の 差である。ここでは、q1>q2とする。
ランダウアーの理論の出発点は次の三つの仮定である。
1.二つのリード線と試料の中ではエネルギーがq2以下の状態はすべて電子で 占められている。
2.リード線L1の中では、速度が右向き(R1からR2の方向)で エネルギーがq1以下の状態はすべて電子で占められている。
3.電子だめR2の中にエネルギーがq2より大きい電子が入れば 直ちにエネルギーが緩和してq2の直上の状態に遷移する。また、電子だめR1の 中からエネルギーがq1より小さい電子が出れば、q1の直下の状態から直ちに 補給される。リード線の中で波数がkの電子のエネルギーをE(k)とすると、 その電子の運ぶ電流は、電荷と群速度の積−edE(k)/hdkである。 仮定1からリード線L1中ではエネルギーがq2より小さい状態にいる 電子の運ぶ電流は打ち消しあって0となる。エネルギーq1とq2の間にある 右向きに走る電子が運ぶ電流はE(k1)=q1、E(k2)=q2とすると、
I0=−e(q1−q2)/2πh
となる。ただし、電子の一部は試料で反射されるので 透過率をTとするとI=I0Tである。一般にTは エネルギーに依存するが、ここではq1とq2の差は充分小さく、この間では Tはエネルギーによらないとする。 二つの電子だめの電位差はV=(q1−q2)/(−e)であるから コンダクタンスは
G=I/V=(2e2/h)T
となる。これがいわゆるランダウアーの公式である。