簡易ファビトロン型質量分析計の設計及び製作

by ('98年度M2濱本浩司)



(1)設計
今回製作するファビトロン型質量分析計とは、図1に示すような簡易ファビトロン型質量分析計である。 (原理についてはここを見て下さい)
そこでこれの製作において決定すべき、

の3つを計算によって関係式を導いた。その式を以下の(1)式と(2)式に示す。

t=(2m/eV)*L'‥‥‥‥‥‥‥ (1)式

f=(√(eV/2m))*(1/L')‥‥‥‥(2)式

(但し、L'=全長(=3L)、m=物質の質量、t=時間)
(1)式はある距離間(L')で、ある質量(m)のイオンを電圧(V)ではしらせた時にかかる時間(t)である。
(2)式は、ある質量(m)のイオンが往復する周期に対応するチョッピング周波数(=電子の発射周期=イオン化周期)である。
さて、以上のようにして電圧、周波数、全長の相互関係を比べてみた。しかしその結果、(2)式においてV=150[V]と仮定した場合(全長はある程度考慮できるとしても)、 周波数が周辺機器の出力可能値を大幅にオーバーしてしまうことがわかった。そこで、周波数を下げるように再度周波数の式[(2)式]を見直した、その結果(3)式のようになり、 図1での中心電極の幅を0(実際はメッシュ状のものを使用)にした。
f=1/((2L')*√(2m/eV))‥‥‥‥‥‥‥(3)式

しかし、電圧を下げたことから当初図1のように、電子銃を胴体の中心軸上に設置できなくなった。これは、電子銃が放出する電子のエネルギーが中心電極のつくるポテンシャル に対して大きいので、本体内へ打ち込まれた電子は、そのまま検出側へと進み電流として検出されてしまうためである。 そこで、電子銃を中心軸に対して垂直に設置することで電子の本体内への進入を防ぐことにした。
以上のことから決定した事項を以下に示す。

  1. 電圧:V=9[V]
    周波数:f=104[Hz]
    全長:L'=10[cm]
  2. 電子銃を本体の中心軸に対し垂直に設置

また図2には改良後のファビトロンを示す。以上の決定事項から製作段階へと進んだ。



(2)製作
まずこの質量分析計を製作する上で、胴体と電子銃の固定法は後にして、とにかく胴体部の製作にかかった。図3に本体の概略図を示す。

さて図3の説明であるが、この図のような形になるまで多少の試行錯誤があった。その部分について、3つの部分に分けて説明したい。
1つ目は、A部分である。この部分は、電子ビームと雰囲気中のガス分子(または原子)とが衝突してイオン化が起 こるところである。イオン化したものは、中央の穴から胴体内部へと進んでいく。この部分は、初め1枚の電極だけであったが、イオン化したもの がうまく穴に進入していくか不安であった。その上、電子がこの穴から進入する恐れもあった。そこでこれらの問題を解決するために、もう1枚 電極(正のポテンシャル)をもうけてやった。しかし、この2枚の電極板の接続法がなかなかうまくいかなかった。そこで、 図4のようにしてやることにした。
2つ目は、B部分である。この部分は中心電極板の固定など、胴体部分の最も重要であり、かつ最も難しい所でもあった。 まずこの部分で悩んだ事は、中心電極をどのように胴体中央で固定するかであった。当然まわりの胴体部分とはポテンシャルが違う為に、周辺との接触を避けなければならず、 かつ完全に固定しなければならない。そこでテフロン製のシャーレで両側から挟んでやることにした。(図5(a))こうすれば 周辺と接触しないが、ここでもう1つの問題が湧いてきた。それは、この両側から挟んだ状態でどのように固定するかであった。 その解決法として、図5(c)のようにすることであった。また、メッシュの張りをある程度もたすために2枚の板で挟んでやった。 (図5(b))

3つ目は、C部分である。ここは、検出側であり、今現在この付近でのイオンの運動がどのようになるか予測でしかわかっていない。
つまり、ファビトロンの原理 のところでイオンは往復運動して増幅していくと述べたが、実際イオンは往復運動か一方運動なのかということである。 往復運動ならば原理のとうりなのだが、一方運動ならば往復運動による増幅でなく、一度のイオン化での各種元素のイオンの 個数で検出に反映する。これでは、検出結果の精度としてはあまりよくない。しかしこの結論は分析計完成後の、実際の測定からでしか 分からない。これは、完成後の課題とする。この部分の構造としては、出来るだけ関係のない所からきたイオンや電子による検出を避ける為に図6のようにした。 以上のことから胴体部分の構造はほぼ完成した。しかし、全体の完成にはまだ以下の問題点が残っている。

  1. 胴体や電子銃の端子への結線方法や絶縁方法
    胴体部分での結線方法は、ほぼ解決しているが、電子銃の端子への結線は少し工夫が必要である。 絶縁方法については絶縁チューブを用いてほとんど解決できる。
  2. 胴体部分と電子銃の固定。
    これについては目下製作中で、今行っている固定法でうまくいかなければ再度考慮しなければならない。

素材は、ほとんどステンレス製の板(0.1mmと0.2mm)を使用したが、中心と検出側はテフロン製のシャーレを加工して使用した。

ファビトロン型質量分析計の実物画像はこちら



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