1959年 W.Tretnerがイオン光学的手法によって周期的なイオン軌道を安定させる
”ファビトロン”という質量分析計を報告した。Tretnerが報告したファビトロン型は、
図1に示すようなものであった。
これは、まずイオン化用の電子ビームを胴体(Wehnelt Cylinder)の中心軸にそって注入してやる。
アノード付近を動き回っている電子は、ガスをイオン化し、その結果イオンは電極板がつくるポテンシャルにしたがってカソード側へと移動する。この時、イオンはシリンダー内を
イオンの種類によって、ある周期で振動する。
このことからTretnerは、もしイオン化が、ある種類のイオンの振動周期に一致するように
電子ビームの周期を調整することによって起こるならば、ある種類のイオンは蓄積されていくと考えた。
つまりある周期で振動しているイオン(この周期はイオンの種類によって異なる。)に対して
、同周期で電子ビームを注入してやれば、そのイオンの個数の増幅が行われるということである。
しかし、Tretnerはもう一度ファビトロンの働きをよく考えた。その結果、RF電源を用いて本体全体で
チョッピングの役目をしていたものを直接イオン陰極で行い、さらに全電極でつくって
いたポテンシャルを、2枚の電極板でつくるという簡略化に成功した。この理由としては、
イオン群の運動に依存している(電極板がつくる)ポテンシャルは、ある程度の電位差をつくるだけで
よく、図1のように本体全電極板で行う必要がないからであった。その改良型を図2に示す。
そこで、今回私が製作している簡易ファビトロン型質量分析計とは、実際ポテンシャルの変動を起こす
電極板が1枚というTretnerが考え出した改良型より更に簡略化されたもので、他の分析計に比べ非常に
製作するのが容易である。その分析計とそのポテンシャルダイヤグラムを図3にしめす。